「先生、チクったでしょう?」──そうきたか、と思いました。
中3の、勉強が苦手な子でした。志望校のレベルは高く、課題をたくさん出されています。にもかかわらず、部活の疲れからか、いつも眠そうにして、やる気が感じられません。思い余って先輩の先生方に相談してみたのですが、それを察したようです。
中学、高校と、文理で学んできた私。たとえば、先生が教室を自ら掃除する姿に、当時は何も感じませんでしたが、就活で学校や進学塾をいくつも見学したことで、それは決して当たり前のことではないと知りました。自分のことは後回しにしても、生徒のことは後回しにしない。そんな文理の教師像に改めて心惹かれ、ここで教えることに決めたのです。
さて、チクったなどと言われて放ってはおけません。親にも相談できず、モヤモヤを溜め込んでいるのではないか。だとしたら、私たちには弱音を吐いていいんだよ、と。そんなやりとりを重ねるうち、どんよりした目がキラキラし始めました。教室に入ってくるときの目線が上がり、授業中の質問も増え、元気な挨拶も。そしてある日、「先生、ありがとうございました」と笑顔とともに。机に向かう姿勢が格段に良くなったのは言うまでもありません。たぶん、私のことを、少し好きになってくれたのかもしれません。
先生が好きになる。すると、その授業が好きになり、その科目が好きになる。文理で教え始めてまだ3ヵ月に過ぎませんが、その子を通して実感し、確信できたことです。もっと多くの子どもたちとまっすぐ向き合い、十人十色の悩みや弱音を受け止められる教師になりたい。まず、私という人間を、好きになってもらうことから始めたいと思います。