「先生、分からないから教えて」――― 数学が苦手な子、手を動かそうともしない子が、そんな声をかけてくるのは、戦う意志が心に芽生えたあかしです。
次の段階は「ここまで自分でやってみるよ」と自発的に取り組むことなのですが、そうなるまでに時間が相当かかります。さらに「ここまでやったけど、ギブアップ!」と歩み寄る頃には、ある程度できる子になっています。ただし、同じ問題がまた翌日も解けるとは限りません。こうした一進一退を見守っているうち、「がんばれば、できそうかも」と、その子は思い始めます。そして、いつのまにか「数学が好き」になっているのです。
他塾から中途採用で文理に入りました。中3の進路指導では、志望校を下げるかどうかで迷う生徒がかなりいます。その際、安全策を選ぶほうが一般的かもしれません。不合格者は出したくないのが人情ですし、塾の売り物である合格実績もキープしやすいですからね。かつて私もそう考えていましたが、ここ1、2年で意識変化が起こりました。「いまのままだとちょっと厳しいかもしれないけれど、一緒にがんばろう!」と強い気持ちで説得できるようになったのです。自分にも息子が生まれ、保護者のお気持ちが分かるようになったせいかもしれません。
文理の教師になったら、少しくらい授業がヘタでも構いません。子どもたちと粘り強く向き合える人がいい。体調がすぐれない日も、授業をすれば治るくらいの人がいい。そして「一緒に戦おう!」と笑顔で言える人がいい。勉強を「嫌い」から「好き」に変えるのは、教える技術より熱意。それも持続する熱意です。熱意さえあれば、子どもは真剣に耳を傾けてくれます。自分の授業もおのずと上手になっていきます。そんな熱意が熱いやりがいとなり、きちんと評価されるのが文理です。